鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

学術会議〝破壊〟作戦 第244回

2025/06/11
  5年前、時の首相菅義偉氏による、6人の会員候補の任命拒否から始まった日本学術会議問題。なにかアカデミックな問題と思われているのか、世論の立ち上がりが弱い。これは言論の自由の問題として、民主主義の一丁目一番地。平和憲法への攻撃としても譲れない一戦だ。

  そもそも、気に食わない学者はパージするという、凶暴な攻撃で、トランプ大統領の大学攻撃と同じように、思想、言論の自由への無謀な挑戦といえる。 

  菅内閣が安保法制などに反対していた学者の任命を拒否したのは、明らかな思想弾圧だったが、それを解決するために組織ごと殲せんめつ滅しようとする狙いが露骨だ。岸田内閣は23年に「組織改変」の法案を見送ったのだが、その後、「政府方針と一致しない見解を出すには、政府機関であることは矛盾だ」として、「国の特別機関」としての現行の学術会議を解体、「特殊法人」にすることにした。 

  ウルトラ、日本維新の議員から「頑な軍学協同反対のスローガンを改め、科学者がわが国防衛や平和の維持に寄与できるようにしていただきたい」との応援演説( 4 月18日、衆院本会議)があった。狙いは明解。 

  学術会議は1949年、科学者が戦争協力させられた苦い歴史の反省から「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献する」(会議法前文) として創設され、これまでも政府方針に対立する意見発表をしてきた。 

  右翼的な政策で、国鉄解体、社会党解体を狙った中曽根康弘大勲位菊花大綬章さえ、「首相の任命権は形式的なものに過ぎない」と明言していた。安倍首相とそれを受けた菅首相には、その民主的感覚など全くない。

  立憲民主党の議員が「首相が任命拒否できると解釈変更した経緯を開示しろ」と東京地裁に訴え、全面開示が命じられた。政府が重要政策を改変するには、公開と説明が必要なのだが、石破内閣は拒んでいる。 

  首相が任命した「監事」や「助言委員会」が運営を取り仕切るのが、野望だ。米日軍事協力が深まっている現在、もっとも危険な政策転換だ。