鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

生きるための闘争 第36回

2020/12/22
 全日建関西生コン支部の武健一委員長の著書『大資本はなぜ私たちを恐れるのか』(旬報社)がユニークだ。

 1942年、徳之島で生まれた武委員長が、労働運動に参加する経緯が興味深い。中卒のあと島で働いていた武さんの目の前に、大阪の生コン会社で働いている先輩が姿を現わした。ピカピカの革靴にスーツ、ネクタイ。眩しくて羨ましかった。19歳で島から大阪に出た。ピカピカ先輩のすすめだった。

 生コン業界は「谷間の産業」といわれ、ゼネコンからは買いたたかれ、セメント会社からは高値のセメントを押し付けられ、労働者は低賃金・長時間労働だった。

 一本気の武さんは職場の先輩の闘いに影響され、次第に活動家になり、やがて企業の枠を越えた、産業別労組を結成、委員長に就任。弱冠23歳だった。

 解屋をされたが、復職闘争で職場に復帰。仲間がヤクザに殺され、彼自身も拉致され、拷問を受けた。建設、生コン業界とヤクザの関係は深い。

 生コン経営者は労働者を使い捨て。経営者はメーカーから使い捨て。労働者の命と健康を護るために、中小零細の経営者の利益を守る。そのために、労使の懇談会の場をつくり、協同組合化、共同受注、共同販売を目指した。労組が経営者の組織化を提案するなど、画期的なことだった。

 これらの運動に大企業が危機感をもつようになった。争議に入っ。たとき、背景資本攻撃などの戦術に敵視を強めていた。「労働者はなめられてはいけない。労働者あっての企業だ」とする武委員長の主張は、これからますます重要だ。会社あっての社員。企業第一主義の思想に労働運動が囚われすぎた。関生の横断的な産業別運動が、これから未組織労働者を組織化し、路頭に迷うのを防ぐ。経営者が矛盾を労働者に転嫁して逃げるのを防ぐのが大事だ。