鎌田 慧 連載コラム
「沈思実行」

死刑制度護持の野蛮  第219回

2024/11/27
  袴田巖さん無罪判決が切り拓いたのは、警察・検察官の誤った権力行使批判であり、再審制度の改革への道であり、死刑制度護持への疑問である。はたして日本の司法は民主的なのかどうか、との疑問を強く感じさせることにもなった。 

  無実であっても、一審判決以来、56年間も死刑囚として拘束されてきた袴田さんへの非人道的措置の問いかけだった。 

  次は狭山事件の冤罪被害者・石川一雄さんの再審開始を、との声が高まっている。過ちは直ちに正すべきだ。それが袴田事件の教訓である。再審請求にたいする警察、検察、裁判所の真摯な自己点検こそが、これからの司法への信頼を高めさせよう。 

  死刑囚が無実を証明されて釈放されたのは、80年代の免田、財田川、松山、島田の4事件以来である。この間に三鷹事件、名張ぶどう酒事件の死刑囚が再審請求中に獄死した。冤罪で処刑されたのは戦後まもなくの福岡事件、菊池事件、最近では飯塚事件などがあり、闇に葬られた冤罪被害者は把握されていない。 

  いま、処刑の最前線にいる確定死刑囚は107人と言われている。執行前に獄死する人もいるだろうが、膨大な人数と言える。執行は法務大臣の命令書によるが、署名数の歴代最高大臣は上川陽子の16人、ついで鳩山邦夫が13人である。上川大臣は署名した夜に、安倍首相らと議員会館でのパーティに参加していたという。 

  経済協力開発機構(OECD)加盟国で、死刑護持国は米国と韓国と日本だけだが、その米国でさえ50 州のうちの半数以上で停止、廃止。韓国も1997年から停止。ロシアも死刑廃止の欧州連合(EU) との関係上、停止中。世界の144カ国が廃止、中止している。 

  「先進国」で日本だけが堂々と国連から勧告を受けてなお、この野蛮な制度を存置している。 

  11月13日、国会議員や大学教授などの護持派と廃止派による「日本の死刑制度について考える懇話会」が、ようやく、死刑制度を見直す公的会議を国会と内閣に求める提言を発表した。廃止は先のこととしても、停止は今すぐにできる。